実家暮らしで一人エッチがやめられない女性Aの悩み(小説:A-後編)

目覚めの一人エッチ

うっすらと空が明るくなったころ、Aは目を覚ます。意外と早起きなのだ
が、目覚めてから外に這い出るまでが長い。

少しズレている下着をなおし、昨日の事を思い出す。
自分で、自分の考えていたことに恥ずかしくなる。布団の中で温まった体がちょっとだけ疼く。妄想をするほど頭は回っていない。少しだけ、自分の胸を揉む。暖かい手のひらが心地いい。乳首をさする。
ぴくっ、と、体が反応した。

「んっ…」

小さな声が漏れる。Aの朝は、だいたいこんな風に始まる。
指を動かしていると、すぐに絶頂を迎える。朝の体は敏感だ。
一晩暖められた部屋の中に、女の匂いが充満しているかのようだった。

「…ふぅ」

乱れた息を整えながら、Aは「またやってしまった…」という小さな後悔と戦っていた。

実家暮らしは楽だったり、大変だったり

「おはよう」

手を洗って居間に移動すると、母が忙しそうに朝食の準備をしていた。

「おはよう。もう遅いけどね」
「休みの日なんだから、いいじゃない」
「休みだから、早く起きるのよ。もったいないじゃない」

実際には早く起きて、もったいない時間を過ごしているのでAとしては反論できない。

「そして、たまには家事を手伝ってよ」
「だって私がやると気に入らなさそうじゃん」
「ちゃんとやらないからでしょ」
「やってるもん」

Aはむすっとする。

「もう、あんたは幾つになっても子供なんだから」

子供じゃないし、そうやって私の自尊心を傷つけなくたっていいのに、とAは心の中で呟く。仲が悪いわけではないが、母は必ずしも心地よい存在ではなかった。

とはいえ、実際に世話になっていることには変わりない。
椅子に座り、むくれていても、温かい朝食は出てくるのである。

「いただきます」

せめてお行儀よく食べておこう、とAは手を合わせる。今日は自分と母しか居ないらしい。
何とはなしにテレビを眺めながらご飯を口に運んでいると、気分が持ち直してきた。

『俳優の○○さんが結婚を発表』
「あら、この人あなたが好きな人じゃない?」
「ほんとだ…」

あ、なんかショック…。
手の届かない、まるで関係のない世界に居た人なのに、誰かのモノになってしまうと知ったら残念な気分になった。

「あなたもあんまり遅くならないようにね、結婚」

母の追い打ちに、しっかりとダメージを受けるAであった。

お昼過ぎにも一人エッチ

昼下がり、自室でAはぼーっとしていた。
特に予定のない休日。
ご飯のあとという事もあって少し眠たくなってしまう。

「どれだけいい女になれば、〇〇さんと結婚できるのかなぁ」

自分をしっかり持って、自立して生きていく。
それが理想なのは分かっているが、いまいちピンと来ない。
いざ自分と向き合うと、何をしたいのか、どうなりたいのかが分からない。

自分のための時間はしっかり作っているつもりである。
だが、その時間ですることといえば、テレビを見たりスマホをいじったり…。なんとなくストレスは発散できているものの、何かを積み上げている気はしないし「理想の私」とは程遠いことも理解している。

こうやってごろごろしている時間は小さな幸せだとは思う。
が、心の底からは肯定は全然できない。

だって、なりたい自分=部屋で一日中ごろごろしている自分
ではないから。

「このままでいいのかな」

ばさっ、とベッドに倒れ込み、目を閉じて一人考える。

一番わからないのは、むしろ自分の事だった。
向き合おうとしても、向き合えない。
向き合い方が分からない。

特別なスキルも才能もない自分。漠然とした焦りや、不安が、時々襲ってくる。

「いやいや、ネガティブになっちゃダメ」

頭をふりふりして、思考を追い払う。
将来は、まだまだ長いし、大丈夫。私は、何だってできる。


…でも、何をしたらいいんだろう。

何かから逃げたいとき。
ちょっとだけ、忘れたいとき。

またAは、自分の体を触るのだった。

性欲を隠さなくてもよくなりたい

自慰の後にはおなじみの、べとつくような罪悪感にAは苛まれていた。
そんなもので、快感を得た自分が恥ずかしくなる。

人には言えない、隠された習慣。
Aがだけが舐められる、秘密の飴。
しかも、いくら舐めても無くならない。
いつだって甘くて、空虚な自分を、ほんの少し満たしてくれる。

すがってしまうのは、しょうがないと思う。
だって、自分にはそれくらいしかない。

自分はもっと、強い人間だと思っていたのに。
性欲なんかに、負けたくないって、思っているのに。

子供のころから見慣れた壁と天井。
家族にびくびくしながらする自慰。
変わらない日々の閉塞感。

体だけが、女になったまま、心は母の言う通り子供のままだった。

同性に愛され、異性にモテる女になりたい。
「カッコいい」人になりたいな。
そんなことばかり気にしてきたせいで、相手の反応がすごく気になるようになってしまっていた。

強気に振る舞っても、内心、自信なんてどこにもない。
表面的な態度とは裏腹に、男の顔色をどこかでうかがってしまう。
昔付き合った男にのめりこめなかった原因も、そこにあるのかもしれない。

近いんだか遠いんだか分からない距離感。友達から一歩だけ私に近づいた存在。それだけだ。
全部は言えないし、全部は聞かせてくれない。

どうしても、Aは自分の弱いところが見せられなかった。
汚いところなんて、なおさらだ。
こんな、一人エッチばかりしている自分なんてどうしようもないのに、きれいに覆い隠して、振舞っていた。

その上に、かぶせた。
「恋人」という使命感で、夢中になれない違和感を上書き。
当然、うまくいかなかった。

ダメな自分なんて、一個も見せられなかった。
お別れのとき

「Aにはもっと似合う人が居るよ」

と彼は言って去った。
私の、女としての価値は何処にあるのだろう。
いやむしろ、そういうの気にしない自分になりたい。
ありのままでいい、って、言ってくれる人がいい。

新しい世界にトライ

自分を押し込めただけで、なんだか全てが中途半端だったと、今になって思う。中途半端にいい子だから、苦しいのだ。
いっそ、悪い子になっちゃおうか…。
悪いことって何だろう?ほんとに悪いことはやだな…。

頭の中では、いろいろなことを考えるAである。
その思考が結実することは少ないのが、今日だけは違った。

「あっ、そうか」

私、刺激が欲しいだけなんだ。

ふと、そんな事実に気づく。
閉鎖的な街も、変わり映えしない日々も、全部置き去りにしてしまいたい。他人と共有するためじゃない、自分だけが知ってる、何かが欲しい。

ふと、Dの言葉がよみがえる。

「彼、強引なんだよね」

Aのスマホの検索履歴は人には見せられない。
実のところ、そういった凌辱的なAVを好んで見ている。
それは、大人なのに子供で居ることを求めらることへの反発。壊してしまいたい今の自分自身の抽象化でもあった。

いつも、画面の中に映っているのは、男の性欲に応えるための女だった。
何も我慢していない。快楽の底に堕ちたことを、むしろ喜んでいるような、そんな恍惚の表情をしている女たち。

見るたびに思う。
私、こんなに気持ち良かったことないな。

まあ、AVだもの。
本当のところはどうなんだろう?

スマホを手にし、ページを探す。
これも本当かウソなのか分からない、性の体験談がたくさんヒットする。
中には自分を重ねられるような話もある。Aはしばし没頭した。

「淫乱なメスに変えられて、しゃぶりついている自分がいました」

「無理やりなのに、いつもとは違う、おかしな濡れかたをして」

「縛られて、何も抵抗できない状態でイかされ続け」

作り物、なんだろうか?
AVじゃない人たちも、なんだか気持ちよさそうにしている。
もしかして、私だけが、気持ちよくない?

いや、いいんだそれで。
ここまで快楽に溺れたら、変になっちゃうよ。
だめだめ。

「どんな女性でも、イケるようになります」
「ご主人様のおかげで、新しい世界を知りました」

ごく個人的なブログまで、そんな話があふれている。
なんであんなことを書くんだろう?
何の得があって?

気になって見返す。
変わっていく女性達。
もしかして、本当のことなの?
エッチって、実は気持ちいいの?
エッチだけで3時間があっという間なんて、ありえるの?

いや、きっと嘘だよ。
嘘嘘。
よく分からないけど、嘘。

スマホの中は、ただのスマホの中。
イきまくるなんて、つくられた世界だ。

…でも、何でこんなに多いんだろう。
男ばかりじゃなく、女までがそんな情報を発信している。

ああ、気になる。

キッカケは、そんなふとした瞬間。
自分が正しいと思ってきたものへの疑いが、日に日に強くなっていく。
一人でも、どんな知り合いでも、解決できない問題。
それは、Aの中の性の問題。

でも、繋がる手段は、ある。

ネットだったら、誰にも分からないはず。

ちょっとした、お試し。
それくらいなら、許されるよね。

出会い系とかよりは、安全でしょ。
破れかぶれなテンションで、書く。

「はじめまして。Aと言います。唐突ですみませんが、私はあまり気持ちよくなったことがありません。いつも一人でしているのですが、それが女としてどうなのか、よく分からなくなってしまいました」

普段の疑問を書き連ねる。

一度きりのつもりで「相談」を送る。

「…うう」

隠していた部分を、人と共有することが、こんなに恥ずかしいなんて。
いままで、私は何も人に見せていなかったのかもしれない。

けど、これで…。

変わらない日々が、何か変わればいい。
ちょっとで、いい。

次の日、いつもとは違うパターンのバイブが鳴る。
新着メッセージの通知。

心臓が止まりそうになる。

震える手で、タップする。

「こんばんは。Aさん。今まで、すごく悩んでいらしたんですね」

Aの性が、はじめて受け入れられた瞬間。
その日から、すべてが始まる。
彼女が憧れた、一人でするよりもずっと濃密で、かけがえのない時間が始まる。

コメント

18歳以上ですか? 一部 R18 向けの記述があります。 あなたは18歳以上ですか?
タイトルとURLをコピーしました