Sってどんな人なの?その素顔は…ある「S」の独白

Sにとっての満足…SはサービスのS?

SMの構図は明快である。
人には言えないようなMの秘密の欲求を、Sが叶えてあげる…

「S側の楽しみって何ですか?」

ある日、僕は差し向かいに座った女性に問われ、言葉に詰まる。

「好奇心…ですかね」

我ながら、歯切れの悪い答えだと思う。
イマイチだ。
身勝手なうえに、面白くもない。

Mについてなら、色々言える。
たくさんの事例を見ているからだ。
M女性たちの本心を知る由はないが、僕が書いた体験談もコラムもおおむね好評だ。
何より、プレイを終えた彼女らはいつも満足げに見えたので、途中の解釈はともかく、最終的な解釈に大きな誤りはないのだろう。

だから、M側の楽しみは?なら色々な観点から言える。
逆は困る。
Sが何をもって満足するか?
僕は自分の事を話すのが苦手である。
同じことで、Sとしての自分も、うまく表現できない。

「Mが満足している様子を見ることに満足する」

お行儀よく答えれば、そうなる。が、冷静に考えれば、この答えも矛盾が見える。
プレイ中、さんざん上位に立っていたSは、結局のところMを満足させるためにプレイしている…というわけだ。
これではあまりに主体性がない気がする。

もしもMが何も欲しなかったら、Sもまた何もできないのか?

つまり、SはMの欲求に支配されているに過ぎない。
支配されるMと、Sの関係が実際には逆転しているわけだ。

SはサービスのS、Mは満足のM…
これは割と有名な一文だが、サービスというのは需要がなければ成立しない。
偉ぶっている場合ではなくなってしまう。

Sはレベルアップが嬉しい?

このねじれを解消する一つの考え方は、SがMの満足のためにしているのではなく
S自身が満足するために、Mを満足させている…というものだ。
ちょっとややこしいが
「上手に相手の性を引き出し、それを満足させられる腕を持っていることに満足する」
という話で、簡略化すると「自分自身のレベルアップが嬉しい」式の考え方である。

しかし、これも欠点がある。
Sのために身を捧げるMがないがしろになっている点だ。
ただの経験値稼ぎでSMプレイをする…?
これは流石に失礼ではなかろうか。

Sは女の痴態を見て喜ぶ?

SMを初めたばかりの人に質問したのなら、答えは全然違うだろう。

「いつもより乱れる姿に興奮する」
「僕のために、ここまでしてくれるんだって愛おしくなる」

カップルが楽しむSMとしても、模範的な回答だと思う。
でも、反論は簡単だ。
それはSMじゃなくて、普通のエッチでも引き出せる反応である、という点だ。

Sは異常者?

真にSっぽい回答は以下だ。

「相手を痛めつけるのが好きだから、それができて嬉しい」

もはやサイコパスである。
SMの本来的な意味から考えるとこれは正しい。そもそもそういう考えの人が真正のSであり
「理由もなく痛めつけられるのが嬉しい」
のが真正のMである。

相手がどうのこうの、は関係ない。
自分がしたいからそうするのだ…

この考えはスッキリしている。
ただし、願望が叶えられる確率は限りなく低いだろう。

理由は簡単「危険だから」

出会い系の危険が叫ばれて等しい昨今では、人を痛めつけるのが好きだという人間に会おうとは思わないだろう。今の時代の道徳で考えれば、忌避されるレベルの考え方ですらある。

MがSについて語る?

もうちょっとだけ、タテマエの話をしよう。

Mというのがどういう人種なのかを語るサイトは多い一方で、Sが一体どういう事を考え、どんな特徴を持つのか?この問いに対する答える殆どない。
誰も書いてないからだ。

なぜなのか?
まず、M側が「Sとは〇〇のものであり…」などと語ることはありえない。
そのような評価や決めつけをすることは恐れ多いことであるし、S側もそういうMは敬遠するだろう。
つまり、Sを探しているMからすると、発信するメリットがないのである。

この点、S側が「Mとは~」という語りを許されている非対称性は面白い。
M側は基本的にはSの意見をMはふむふむと静かに聞くものであり、そういう気質の集まりということができる。ここには考えの一方通行性が見て取れる。

Sに求められる偶像性

Sに求められるのは、泰然自若とした支配者の顔である。
Mが持つような人間的弱さとは無縁の人でなければならない。
苦悩に寄り添うのではなく、苦悩そのものを笑い飛ばし、破壊してくれるような強さこそが求められる。そんな人になら、自分の全てを預けてもいい…Mはきっと、心のどこかでそんな完全性を求めている。自分が頼りにしているものが揺らいだら困るのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

また前述のとおり、Mから見ればSは自分を加虐する危ない人なのである。
そういうリスキーな人達の中から、自分が付き従うための一人を選ぶとしたら?
理性的で、安全そうな人がよいに決まっている。

依存対象としても、支配者としても、それがいい。

一番危ないのは、自分の欲望にブレーキを掛けられなさそうな人である。
縛られて、鞭打たれて…もしもそんな最中に、Sのブレーキが外れてしまったら?

そんな想像をちょっとでもしたなら「危なくなさそうな人」を選ぶことになる。

S側もそんなことは分かっている。
人気を集めるためには、可能な限りM側の不安をそぎ落とさなければならない。

精神的なつながりを求める場合でも同じである。
自己の不安定さ、弱さ、どうしようもない寂しさを癒してくれる絶対的支配を求めるMからすると、必要なのは
いつでも安定していて、精神的に強く、いつでもあなたの寂しさを癒してくれるようなSである。

だから「S」もまた気を使う。

ほんの少しでも弱さを見せないように
ほんの少しでも危なげなところを見せないように

かくして、Sの理想形は定まってくる。
理性的で、紳士的で、強い人…

長い関係の中で、それを保ち続けるのは難しいかもしれない。
ただ、一番最初に求められる顔は、そんな風に決まる。

Sとしての僕

話を大幅に戻して、僕の話をしよう。

名前はハルト。
SMサイトの管理人。
Mではなく、Sのほう。

SM体験という怪しい事をしている。
数を自慢するわけではないが、実際にプレイしたM女性の数は両手の指より多い。
職業的サディスト(?)や、縄師でもない素人としては結構な数と言えると思う。
(一部は体験談として書きおろしている。興味があれば見てほしい)

あんまりギチギチのSMはしない。
サイトの特性があるのだと思う。縄の写真も鞭の写真もないので、どちらかというとソフトなイメージで応募してくれる人が多い。僕もそれでいいと思っている。
ハードなことが希望な人にはハードなこともしてるが、難しい道具は使わない主義だ。
道具というのは準備や使い方が決まっているものであって、そういうものが入りすぎると、プレイの内容が画一的になってしまう。
M女性に合わせたプレイをしようと思うと、そういう決まりきった感じが、イマジネーションを損なう。だから、あまり使わない。
結局、求められているのは「心の繋がり」だと思っていて、そこに派手な道具も、プレイも必要ない…というのが基本的なスタンスだ。

Sとしての僕の弱さ

「体験」なので、一回きりなのか?という質問がよくある。
答えは、その人による。
お互い気に入ればその後も続けて会ったりする。そうじゃない場合ももちろんある。

勘違いしないでほしいのは、僕はたくさんの女性をとっかえひっかえしたい…と思って体験を設けてるわけではない。
理想の一人を見つけたなら、そこで終わりになると思う。
でも、その理想に巡り合うのはなかなかに難しい。

なんにしても、今のところはそういうパートナーとは出会えていない、寂しいSなのである。

更に言うと、僕は前半で述べたような、身も心もマッチョなS様とは全然ちがう。
理性的で紳士的という点では自信があるが(自分で言うか!)強さという点では、ここしばらく全くダメなのである。

現に、いまの僕は精神的にかなりボロボロである。
もともと季節性ウツの気があり、特にこの季節は崩れる。

夏の間、整然としていた部屋は今や見る影もなく散らかっている。
夜は眠れず、食欲も減って体重が落ちた。

毎日「生きている意味」を、ネガティブに考える。
そして、なぜそんな答えのないことを考えてるのか分からない。

今にも死んでしまおう!と思う反面
まだ死ななくても大丈夫だ、と思う。

死ぬのは簡単だから。

僕は10代から20代にかけて、地獄のようなウツ期を何とか乗り越えて、人並みの幸せを感じられるようになった。
でも、もう一回あのウツ期が来たら耐えられないので、死のうと思っている。
今のとこ何とかやり過ごしているが、その日が近づいている気は常々していて、そのことに対する恐怖も増している。
当然、余裕はなくなり、気は滅入り、負のスパイラルに入る。

人並みの幸せはどこで感じたのか?
これは明らかだ。

その瞬間は、僕を愛してくれる女がいたから。

自分を愛して、頼りにしてくれる存在が、僕の僕自身に対するいびつな興味をそらしてくれた。
言葉にするとチープだ。
だが、所詮そんなものである。
崇高な理念ばかり掲げている人間が素晴らしいわけではない。
そこにあるのは、使い古されて手垢まみれになったモチーフであり、誰もがその先に何かがあるのか?と期待しつつ、結局は舞い戻ってる真実に過ぎない。

僕がSとして活動する理由

さて、ブログでも書き散らしている通り、M女性の中にも「死にたい、消えたい」「孤独、病んでる」という属性を持つ方は多い。
最初は推測だった「M性」と「気質」の関係は、今や数字で表せられるような客観的事実になりつつある。

僕が「M女性」にフォーカスして関わりを持とうとしている理由も、実はそこで繋がっている。
僕自身が感じている生きづらさを共有してくれるのではないだろうか?
という淡い期待である。

だから、僕にとってのS側の楽しみは
「理想の人と巡り合えるかもしれない期待」と言える。

理想の中には性癖も入っている。
体の相性も、悪いよりはいい方がいいに決まっている。

凸凹がうまくかみ合うように、相手の内面を深く知ることで、より緻密にフィットしているかどうかを知ることができる。

Sがどんな人なのか知りたいMさんへ

人の心に触れるというのは、やりすぎてもいけないし、やらなすぎてもいけない。
離れたままなら、距離はそのままに広がって行ってしまうし
急に近づいたら、びっくりして逃げられてしまうかもしれない。

SMという「相手の事を探る共通の趣味」で繋がることは、このバランスを取りやすくする。
特別な時間を作って、特別なことをして、今まで見えなかった面を知る。

合わなかったら、どうするか?
それが大した問題でないなら、無害な事実として放っておけばいいと思う。
そういうことは現実的には山ほどある。

我慢できないくらい大きな問題だったら?
それは潔くあきらめるしかない。
たまたま早く見つかっただけで、いずれは大きなすれ違いになっていたものに違いない。
ぼんやり蓋をして遠ざけておくよりは、さっさと解決するなりなんなりしたほうがいい。


最後にもうひとつ、SとMの違いなんて、役割の違いでしかないと僕は思う。
この記事で白状してしまったように、僕自身、Sぶっておきながら弱い人間であるのは間違いない。
それでもMさんより優位に立つことがあるのは、単純に人生経験の違いという面もある(M女さんは、基本的にかなり年が離れた年下)

あまり恐れ多く思ったり、自分とかけ離れた存在なのだ…とMさんが委縮する必要はない。
ただ、自然に、それなりの礼節をもって接すればいいだけだ。
Sだって、実はあなたの内面に、自分と同類の弱さを見て、それを微笑ましく思っている事はきっと多いのだから。


コメント

  1. A より:

    SMの勉強をし始めた頃から白いゾーンサイトを拝見しています。
    本日公開された記事を拝見し、私の望むS様は何なのか管理人様に聞いていただきたくて、初めてコメントを送りました。

    私は一度も主従関係を経験したことがありません。
    そのため、私の中でのS様のイメージは本とTwitterのツイートで構成されていました。
    SMの勉強をし始め、白いゾーンサイトを拝見することで構成されていたS様のイメージはサディスト様に近いことが分かりました。
    それと同時に、私のMに合っているのはドミナント様寄りということに気付きました。
    その後にS様と会話をする機会があり、私はどんなS様を求めているのか考えさせられました。

    まだS様と主従関係を結んだことがないのに、こういうS様を求めていますとお話するのは失礼かと思いますが。
    私は完璧ではないS様と主従関係を結べたらと思っています。
    様々な面において完璧なS様は魅力的にみえますが、主従関係が1日のみでは終わらないことを考えると心が疲れてしまうように感じます。
    そして、完璧なS様の前では少しでも悪い面を見せてはならないといった緊張が続いてしまうのではとも思ってしまいます。
    これらの理由から、管理人様は私にとって「短期間で切れることはない、信頼関係を構築出来ている主従関係」を結べそうなS様にみえます。
    (上から目線と思われましたら申し訳ありません)

    長文になってしまいましたが、本日の記事が私の中に響いたことを知っていただけたら幸いです。
    管理人様にとって理想の人と巡り会えることを祈って。

    • ハルト より:

      Aさん、コメントありがとうございます。
      仰る通りで、完璧な主であり続けることは難しいと思います。
      実際にそれが可能だとしたら、断片的にいいところをだけを切り取って見せている場合だけかもしれません。
      Aさんにとって、信頼できそうな人間だと見えているとのことで、嬉しく思います。

      S様も色々なタイプがいらっしゃるので、自分に合ったいい人が見つかるといいですね。

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