マゾヒズムにも医学的な定義がある?
Mってなんなの?という議論に終止符を打つ時が来ました。
実は、マゾヒズムに関しては医学的・心理学的なアプローチが昔から試みられており、ある程度の決着がついています。
本記事では学問レベルで「Mって何?」を見ていきましょう。
直前の3記事を参照すると、論文を読むための最低限の知識を身につけることができます。
マゾヒストとマゾヒズム
マゾヒストというのは、被虐性向を持っている人を指します。
マゾヒストの持つ「被虐されたいという願望や、行動様式」をマゾヒズムといいます。
当サイトで「Mさん」と言っているのはマゾヒストと、その近縁に居る人たちを指します。
マゾヒズムと精神疾患
心理テスト の項目の一つに「マゾヒズム」があることにお気づきの方も居るかもしれません。
実は過去に、マゾヒズムがパーソナリティ障害として定義されかけたことがあります。
いろいろ反対があって流れたようですが…
名称は「自己敗北性パーソナリティ障害」で、自ら苦痛の中に飛び込むような性格を指します。
こうした傾向が強すぎる人が、ひとつの病気として扱われそうになった、という事です。
マゾヒズムに関する論文
上記のように、マゾヒズムに病理を見て、それと紐解こうとする試みは実は100年近く昔までさかのぼります。
一般的にそういうことが認識されてない理由は、アクセスしにくいところにある情報だからです。
先ほど紹介したwikipediaを読みかけて、挫折した方も結構いるんじゃないかと思います。
僕たちが「エロの1ジャンル」だと思っていたMさんが、聞いたことも無いような言葉で解説されているわけです。
実はマゾヒストに関する論文もネットで読めるのですが、wikipedia以上に読みにくく、内容を理解するためには心理学や精神病理の複合的な知識を必要とします。
本記事はその一端を、平易な言葉で紹介したいと思います。
マゾの歴史
ちょっとその前に、研究の歴史を紹介します。
マゾヒストをいくつかのタイプに分ける試みというのは実は100年近く前からすでに行われています。
(好みのプレイを列挙するようなものではありませんが…)
最も初期に生まれたのは「痛いのが気持ち良い」というマゾヒズムで、これは性愛的マゾヒズムと呼ばれます。
今日でもMさんの一般的なイメージになっているでしょう。
その後、性的ではない心理学的な解釈が付け加えられ「愛情を得るために不利益を選ぶ」という特性が示されました。
さらに後年ではパーソナリティ障害と絡めた議論も行われています。
実は、こういった論文を見つけて読んだのは「白いゾーン」のほぼすべての記事を書き上げた後でした。
何年もかけて書き上げてきたものは一体何だったんだ、という脱力感と、僕が考えて言葉にしてきたものの裏付けが取れたことの嬉しさ、両方の感情を味わったわけです。
マゾヒズムの研究というのが世の中的にはレアで、その病理的背景を理解している人が、世の中にどれくらいいるのかわかりません。
おそらくですが、ケアを期待して病院やカウンセリングに訪れたとしても、その知識を持つ治療者に当たる確率は低いでしょう。
もしもそういう事に興味を持ったなら、白いゾーンでの悩み相談、体験相談もどうぞご利用ください。色んな意味で、自分が楽になるきっかけを見つけられるかもしれません。
幼少期の虐待とマゾヒズム
ジャンルとしては医学の論文に当たるので、論文内に登場するマゾヒストはいずれも「治療が必要な、病的レベル」であったことが推測されます。僕たちが今日考えているような「Mっぽさ」とは異なるかもしれません。
本記事で紹介する論文は、すべてのマゾヒストに「幼少期の虐待があった」と言い切られています。
必ずしもMさんに、そういう病理があるとは限りません。
しかし、実態を述べれば一要因としては確かに、そういうこともあるのです。
僕自身はこのようなサイトを運営しており、色々なM女性の過去を聞いてきました。
その中には、やはり虐待の過去を持っている方もいました。
大切なのは、枠組みを知る事
Mさんの過去は、とても個人的で、センシティブな話題です。
全ての人に上記のような「虐待の過去」を見る必要は全くありません。
そうでないMさんも多いでしょうし、実際そんなことがあったとしても、話せるほど自分の中で消化できているとは限りません。
大切なのは、その枠組みを知ることです。
次章で紹介する論文に、本質的な一文があります。
引用; マゾヒストは愛情本能に駆り立てられ,満足を得るための代価として喜んで身を苦痛や死にさらすのである。
本質的によい「ご主人様」は、こういう知識の習得にも努め、Mさんがより生きやすいようにバックアップしてあげられる人なんだと思います。
もちろん、十人十色の背景を認めたうえで。
マゾヒストに関する論文を読む
翻訳マゾヒズムにおけるリビドーと現実:バーリナー,B.(1940
https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/repository/metadata/2119/GKH019514.pdf刊行年は1940年でありながら、今日でも通じるマゾヒストの枠組みを紐解いています。
僕がこの文書を知ったのは「白いゾーン」を作り始めてから相当経ってからなのですが、自分の考える「SMなのに、SMをそれほど望んで無さそうな人の説明」に大筋で合致しており、驚いたのを覚えています。
「マゾヒストは幼少期に拒絶された体験を持つ。しかしながら幼児はそれすらも愛情として認識する。かくして、愛情とは苦痛と拒絶なのだという認知が成立する。大人になってからはこれを転移して、愛情が欲しいと感じた相手に苦痛を要求するようになる」
いかがでしょうか。
SMプレイをしたいと願うMさんが「相手がだれでもいいわけではない」と言ったり、恋愛と見分けのつかないような考え方をしている点にもうまくあてはまり、矛盾の無い説明になっています。
以下は原文からの引用です
マゾヒストの生育歴を見ても分かることだが,幼児期早期に激烈な心的外傷状況が実際に生じている。私の経験からすると,マゾヒス トは大抵,愛情 を受けていない子 ども,あるいは直接的に憎 しみを向けられ,虐待 された子どもであった。
マゾヒス トは自分を憎み,自分に苦痛 を引き起こした人物を愛 している。
憎むことができないとしたら,服従し,罪悪感を感じ,あたかも憎まれることが愛情であるかのように,その憎しみを受容するしかあるまい。このようにして,マゾヒストは自分を憎み,拒絶する相手の愛情を得るために苦痛をひきうける。そうすれば対象を放棄する必要がないからである。
主体が依存 していると感 じている愛情対象があり,主体はこの対象から愛情 を手に入れたいと願う。ところが,それがほかならぬ破壊的衝動によって応じられた場合に限って,こうしたことが生じるのである
翻訳マゾヒズムにおけるリビドーと現実:バーリナー,B.(1940
白いゾーンとMさん
近年では性の多様化が進み「M」の指す範囲も拡大してきたことから、伝統的な「マゾヒスト」とはその範囲を異にしているかもしれません。
精神科学の分野でも新しい概念が導入されたり、古いものも更新されてきています。
そこに新たな意味づけができる可能性も十分にあります。
筆者は学者でも医師でもカウンセラでもない、一人の男性です。
それもMさんと性的接触まで持っている生身の男性です。
そういう人が、わりあい客観的に体験談や考察を提供しているという点では、それなりの価値があるものと思っています。
白いゾーンの真面目な(?)記事が、現代を生きるMさんの助けになることを願ってやみません。
コメント
いつも性やSMの知識を得る為拝見させて頂いております。
今回の記事 思い当たる節が沢山ありました。
私の妻が正に幼少期に実父や実兄から性的虐待を受けた経験があり、その苦悩を打ち明けてくれた私に同じ様な性的虐待を求める事が多々ありました。
本人曰く、あの絶望的な諦め?無心になり快楽だけ?を感じる事が日常の嫌な事を忘れる唯一の手段だと言っています。
私自身も幼少期に虐待で育てられ、今ではほぼ支障のないくらいになっていますが精神疾患を持っております。
ハルトさんのブログは自己啓発的な部分も多く、ほぉ!と思わせてくれる記事が沢山ありますので、今後も色々な記事を掲載して頂けます様、陰ながら応援させて頂きたいとか思います。
取り留めのない事をつらつら記載しましたが、何卒お許しくださいませ。m(*_ _)m
緊縛愛好家さん、コメントありがとうございます。
ご参考になったようで何よりです。
当サイトにお寄せいただく相談でも、同じように虐待の過去と、似たようなSMプレイでしか満たされない…という方は何人かいらっしゃいました。
こういう気持ちを簡単に解消することは難しいでしょうけれど、知識を持つことで少しでも楽になれたらいいなと思います。
幼少期、虐待に遭ったから、その後の人生で終生M性格とは、納得できません。
私、10代頃、身近な者や、学校でも、いじめられていたことありますが、今でも、性格はS性格です、これは まぎれもない自身の体験です。
複数の武道をやり、有段者にもなり、決して負けたり、いじめられることが好きではありません。人の性格は、さまざまです。決してひとくくりで論じられる事はできないでしょう。
上野さん、コメントありがとうございます。
仰る通りで、幼少期に何かあった=Mになる、という事が必ず成り立つとは言えないです。
そのような誤解が起きないよう、本文および引用元の論文に注記があったかと思います。
色々なことをコントロールできるように自身を鍛えるというのは、とても前向きでよいことに思います。