処女を捨てたい女 奈緒(20) 学生

女子大学生の相談

「処女を捨てたいんです」

相談は、そんな言葉から始まる。
フツウに生きていて、そういうことを言われたことのある男性がどれくらいいるだろう?

処女喪失を望む女性からアプローチされるなんてことがあるのか?
答えは、ある。
実際のところこの相談は多い。
一般的な割合と比較すれば、とても多いと言っても差し支えないだろう。

「どうして?」
と僕は問う。その動機を知りたいと思ったからだ。

隣に座った奈緒は、水を一口飲んでから答える。

「好きな人がいるんですけど、初めてだと面倒くさいと思われそうで」
「なるほど。とはいえ、思い切った理由だね」
「エッチなことに、興味はずっとあるんですよ。だから他の体験サイトに申し込んだりしたこともあるんです。でも、私が直前で怖くなっちゃって辞めました。相手の人も怒っていました」
「僕と会うのは怖くなかったの?」
「あんまり怖くなかったです。ちゃんと話を聞いてくれたし、それで安心できたってのもあって」
「話を聞くのは、大事なことだからね」

人もまばらなカフェで、抑えめのトーンで話す僕たちがどう周りの目に映っていたか分からない。
少し年の離れたカップルに見えたかもしれないし、それよりもっとドライな趣味の友人にでも見えたかもしれない。

実際のところ、二人は性の話をしていた。
奈緒はあまり感情を表に出さない。意識的に出さないというわけではなく、もともと控えめなのだろう。見ようによっては、おっとりと大人しい。20歳そこそこで情緒的に完成され、場面に合わせて喜怒哀楽を表現できるほうが珍しいのかもしれない。

性的な話も、処女を失う話も、まるでそれが当たり前であるかのように奈緒は話す。もう少し動揺するかと思ったのだが。
話の結論にたどり着くまで大した時間はかからなかった。

奈緒の決意は、ずっと変わらないままだった。

運ばれたランチをきれいに食べ、食後のティーセットに満足そうな表情を浮かべている。
彼女は自分の決断を信じている。若さゆえの自信が、少しだけ眩しかった。

はじめての瞬間に

体験については「関東以外に住んでいるんですけど、大丈夫でしょうか」と聞かれることが多い。
特に問題はない。
観光もかねて東京に来てもらうことがほとんどだ。

奈緒は関西からきて、僕の下で処女を喪失した。
なぜ、そこまでして?

「私にとって、東京ってディズニーランドなんです。ワクワク、ドキドキすることばっかりつまってる。いつもの自分を捨てて、目いっぱい楽しんで…そういうのって、私を知らない人たちの街じゃないとって思って」

分からなくもない。
でも、はるばる会いに来た人がイマイチな人だったらどうするのだろう?

「その時はその時です。でも、ハルトさんが素敵な人でよかった」

面と向かって言われるのは気恥ずかしい。
10年前だったら素直に自信を持っただろうが、僕もぼちぼち年を取っている。
彼女にとってそれがどう見えているのかはよく分からない。

ランチのあと、せっかく東京に来たんだから、少しぶらついていこうかと提案すると、奈緒は喜んだ。

冬は終わりに差し掛かっており、肌寒い日日が続いていたけど、奈緒が来た日だけは特別なくらい晴れていた。
陽光がちょうど人肌くらいの暖かさで差し込み、何とも言えず良い気分になった。

ゆっくりと東京の街を歩き、眺めた。
旅先の風景というのは、なんだって面白いものだ。

「好きです、こういうの」

奈緒は口数少なに言った。
無口な彼女は決して機嫌が悪いわけではない。僕はその平穏さを好意的に受け取った。

「はじめて」

夕方に差し掛かるころ、ホテルにチェックインした。

彼女にはあまりストーリーがない。
SMに強く憧れたわけでも、僕に心底惚れているわけでもない。
奈緒にとって目の前の僕は、ただ処女を奪ってくれる人、という認識かもしれない。

あえて詳しくは聞かない。
僕も遠い昔の記憶を思いおこし「はじめて」が特に神聖な意味を持っていたわけではないと思い当たったからだ。
当時は(今もかもしれない)西洋的道徳観も気にならなかったし、人を愛するということも大して分かっていなかった。
人はただ生きていく。だから、ただセックスをするということも、そう間違いではないだろう。

ベットの上では僕たちは、ぎこちなく身を寄せ合う。
肩を抱き寄せたとき、初めて奈緒はエッチなことをしているのに気付いたかのように言った。

「…恥ずかしすぎます」

照れる様がかわいい。
性的な経験なんて何もない彼女に、僕はゆっくりと触れる。
手のひらを肌に。体温を移すみたいに。

「…ま、待って。だめかもしれない。ほんとに恥ずかしい。なんで」

薄暗い室内でもはっきりと分かるくらい、奈緒の耳は紅潮していた。
僕はその耳を優しく噛んで、そっと

「やめてあげない」

と囁いた。
服にそっと手をかけて脱がせる。

「や…あの、誰にも体見せたことないんですけどいいですか」

無意味な問いかけから、彼女の混乱が伝わってくる。
僕がダメというはずもない。
ゆったりとしたブラウスを脱がせると、少し汗ばんだキャミソールが現れる。

どんなに着飾っていても、中にあるのは男性が絶対につけないような下着。
着飾った姿を脱ぎ捨てて一人の女になる瞬間、僕はたまらない女性性を感じる。

「脱がすよ」
「こ、これもですか」
「あたりまえでしょ」

そのまま僕は下着をゆっくりと眺める。
奈緒はこれ以上できないくらい、一生懸命に視線をそらしている。

「ちゃんと見せてごらん」

わざと意地悪にいう。
体を隠す腕が少しだけ下がって、またすぐに戻る。
僕は細い手首をそっとつかんで、そのまま押し倒す。

「……!」

二人だけのシンとした部屋に、奈緒の荒い息づかいが響く。
そのまま唇を奪う。初めてのキスにぎゅっと固くした体をゆっくりと愛撫する。
頭をなでて、耳元、首筋、背中、腰。
柔らかく、ゆっくりと揉みしだく。

奈緒の下着はぐっしょりと濡れて、僕の指先がぬるりと滑った。

すごい濡れてるよ。

あえてそうやって言葉をかけながら、ゆっくりとセックスの手順が進んでいく。

いよいよ、彼女の望んだ瞬間が訪れる
僕は彼女の中をじわじわと押し広げながら、進む。

処女を失うことにうまい、下手があるとしたら、奈緒はとてもうまいほうだった。
うまく力を抜いて、僕の言われたとおりにするものだから、あっという間だった。

「なんか変な感じです…」

彼女はずっと僕にきつく抱きついて終わる瞬間を待っていた。
あまり痛くはなかったようだ。
途中からはずいぶんと色っぽい声を出して、奈緒は無事に「卒業」した。

深夜、誰もいない時間に

夜ご飯を食べて、少しお酒を飲んだ奈緒はすっかり上機嫌だった。

その日、僕は彼女と一緒に泊まった。
ベッドの中でふざけあっているうちにウトウトとまどろんだり、うっすらと目を覚ましたり。
慣れない他人が隣に寝ているのだから、眠りが浅いのは仕方がない。

何度目かに目が覚めた時、奈緒は僕にぎゅっと抱きつき、だしぬけに僕の唇に吸い付いてきた。
そのまま僕の股間に手を伸ばして、細い指先で愛撫する。
彼女がベッドにもぐりこむと、舌先のぬめりと熱さが僕のものに伝わる。
大きくなったそれを確認すると、奈緒は僕にまたがり、自ら挿入する。

「痛…」

顔をしかめたのは、その瞬間だけだった。
すぐに奈緒は夢中になって腰を振った。嬌声を上げて、快楽にふける。
その姿は、つい数時間前に初めてを済ませた女には見えなかった。

処女を捨てるために、特に好きでもない男としたのか?
僕にはとてもそうは思えなかった。

奈緒の表情はよく見えない。
ただ、見つめる視線の先には確かに僕がいた。
手のひらを重ねて、ぎゅうっと握りしめる。

スキ。
ダイスキ。

誰もが眠っている時間帯。
僕と奈緒だけが、夢と現実のはざまで抱き合っている。

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