才女の秘密 葵(25) クリエイター

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SMをしてみたい、SMなら新たな自分を発見できるかもしれないから…という動機で体験相談を頂くことが多い。
なぜSMに憧れるのかというと、一度それっぽいものをやってみて良かったからとか、未経験だから好奇心で、などがある。

もう少し掘り下げると、文脈は二つに分かれる。

・SMでも気持ちよくなりたい。
・SMなら気持ちよくなれそう。

前者は普通のセックスにそこそこ満足していて、その延長線上により刺激的なSMプレイを夢見る。
後者は普通のセックスであまり満足していない。そもそも、気持ちよくなった経験自体が少ない。

人間は、単純に気持ちよくなりたい。
これは共通原理だ。
なのに、正反対にありそうな、痛い、苦しいSMプレイをしたがる。

なぜなのか?

もっと素直に気持ちよくなってもいいんじゃないか、と僕は思う。

エリート女性の性

「私は、よくSだと周りから言われることが多いです。実際にそういう面もあり、付き合った男性がMばかりなんです。引き寄せちゃってるのかもしれません」

目の前に座る葵を見ながら、僕は最初にもらったメッセージを思い出していた。
スッと伸びた長い四肢。スポーツは欠かさず続けているそうで、適度に締まったシェイプでありながら、女性らしい柔らかさも備えている。
意志の強そうな瞳を彩るメイクは、ファッションモデルのようである。
なぜかと言えば、そこに巷の流行り廃りとは関係のない、確かな知識とテクニックを感じるからだ。
実際、葵はファッションの仕事をしている。小売業ではなく、クリエイティブな領域で。
バイタリティが無いとできない仕事に持ち前の若さも相まって、生命力とでもいうべきものが、葵から溢れている。
M男性が憧れるのも無理はない。

「Sプレイも好きですよ。気持ちよくしてあげるのに色々気を使いますけど、それで乱れてたりすると、よかったねー^^という気持ちになります。思えば、小さい時からその気があったかも。友達同士で手足を縛って、ちょっとおかしくなるまでくすぐったり。」
「…自分がくすぐられる側になった時はどうだったの?」
「何もなかったです。私は全然くすぐったがらないので、いつもくすぐる側でした」

うふふ、と葵は思い出し笑いをする。
狂気じみたエピソードも相まって、実際にSっ気はにじみ出ているように感じた。

よく笑い、とりとめもなく、よく話す。
彼女の人生の中心にはアートがある。
趣味はカメラはセミプロのレベルだ。

葵は、目の前の人間を、本人も気づかないような側面から描きだし、表現して伝えることに毎日腐心している。
一応、白いゾーンも似たようなことをしているから、親和性があったのかもしれない。
僕はおおむね葵の意見に同意できたし、その逆も然りだった。したがって、話はSMのこと以外でよく弾んだ。

「ありのままを引き出すためには、目いっぱいテンション上げてあげないとダメなんですよね。その人が気づかないくらいの素の自分って、他人が引き出してあげるしかないんです」

もしかしたら、僕自身が彼女に「引き出されている」のかもしれない。
時々雰囲気に飲まれそうになりながら、話を戻す。

「SM以外の性経験は?」
「それなりにあります」
「Sが出るのって、改まってSMプレイをする時よりも、普通のエッチの時になるんだよね?」
「ですね。相手がもじもじしていると、自分から動いちゃいます。せっかく特別な時間だから、目いっぱい楽しみたいって思っちゃうんですよ。自分が何かして、相手も楽しんでくれて、それで盛り上がって、でいいじゃない?って考えるんです」
「自分が責められた経験はあまりない?」
「そうですね。ただ、以前に自称S男性から二週間ほどのこるアザができるスパンキングや鞭を受けたときも、気持ちよかったような気がして、アスリート的な快感がありました。」
「どんなプレイをしたの?」
「一本鞭とか」

平然と言うが、レベルがすごく高い。

「体験の希望は、ハードなSMプレイ?」
「うーん…やってみたいことは色々あるんですけど、うまく言語化できなくて…内容はハルトさんにお任せします」

大体、メッセージのやりとりや当日話した感じで、何がハマるかプレイのイメージがついてくる。
人間はどこかアンバランスな部分があって、そこを突いていくと、反応するポイントが分かってくる。

葵は違った。
そのスタイルと同じように、内面も均整が取れている。

アップテンポな会話の中で、打てば響くように答え、ある程度話すと紅茶を美味しそうに一口飲む。
その間に僕の話を聞き、すぐに咀嚼しては、観点を変えて発展させる。
ハイレベルでありながら、常にフラットだった。

冒頭の相談メッセージについて、続きを記しておく。

「Mな側面は、そもそも自分を超えたS性のある人の前でないと発現しないような気がして、あまり出てくることはありません。が、支配的なキャラクターや物語は好きですし、白いゾーンのハルトさんの記事の他の方の体験のエピソードを読み、ここでならもしかしたら自分のM性について何か発見できるかも?ハルトさんの体験を通して、もっと自分の感覚やコミュニケーション能力を高めたいと思い、ご連絡させていただきました。私ばっかりでも申し訳ないので、良かったら好きに使って下さい。」

理路整然とした文章に対応するように、目の前で話す葵もまた聡明である。

「体験させていただける前に、ハルトさんの「Mの本当の特徴?」の記事から心理テストを受けて、ご共有しておきたいと思っていたので、結果を送らせていただきます」

テストは原語(英語)で試したそうだ。
彼女は誰もがエリートと認識するような、恐ろしく偏差値の高い大学を出ている。

裸になるのは恥ずかしくないけれど

砕けたメッセージのやり取りも紹介しておく。

「私は共感力が優れている方で、責め側に立つ相手の考えていることがやや肌感覚でわかってしまい、自分がM側に集中しにくくなる事象も私には起こっているなぁと思います。

してみたいこと、されたくないことについてお返事しようと考えていたのですが、言語化はあまりうまくないので、アバウトになってしまいます。
(例えば、力を使い切りたいとか、体感覚を鋭くしたい、やりきった感を感じたいなど)うまく言葉にできません…」

「言葉であれこれ言われると、体の感覚から集中が逸れてしまうタイプな気がするので、単純に痛い、疲れる、苦しいなどの追い込む系がいいかもしれませんね。」

「ハルトさんのご指摘の通り、言葉を投げかけられると思考スイッチが入ってしまうタイプだと思います。追い込まれる系は経験があまりないので、とても興味があります」

「何となくですが、SMの前に受け身のセックスの経験が少なめだったりしませんか?
相手を気持ちよくさせることばかり気にしていて、自分自身の快楽に溺れる機会が無かったのだとしたら、その手のプレイも少し混ぜてみてもよいかと思います」

「何となくのご指摘、当たっています!
おっしゃる通りで、相手を気持ちよくさせることに気を取られ、むしろ、それに情熱が燃えてしまい、自分自身は快楽に「溺れる」機会はあまりなかったです。鋭いですね…」

「SMは役割分担が分かれているので、集中力のない人向けでもあるんです
痛み、苦しみが欲しいMさんのうちの一部は、単純に「快楽に溺れたい」だったりします。
それなら普通のセックスでもいいんじゃない?と考えそうですが
普通のセックスだとまず相手を気持ちよくさせなくちゃ…ってなるんですよね」

「わたしは集中力は、入ればある方なのですが、頭が動き過ぎてしまって集中できないこともしばしばあります。
なるほど、とても、おっしゃていることわかりました。普通のセックスだとまず、相手を気持ちよくさせなくちゃ…という思い込みがでてきてしまいます」

ここまで読んだ諸氏は、次のように考えるかもしれない
・葵はMになりきれるシチュエーションを望んでおり、今までその機会に恵まれなかった。
・気を使わせずにM側に没頭してもらえば、楽しんでくれるだろう。

僕も文字だけなら似たようなことは考えるのだが、本人を前にすると、そう一筋縄ではいかないことが分かる。
ホテルに入り、服を脱ぎすてる時も、実に堂々とした態度のままだった。

「躊躇がないね。恥ずかしいとかはない?」
「そうですね。全然」

結論から言うと、この日の ”SMプレイ” はごく僅かで終わる。
僕は彼女の体を検分するように幾度か触り、興味のあるというプレイを試しては、すぐにやめた。
スイッチが入らない。
プレイをしても「SMの雰囲気」にならず、体に触れても「エッチな雰囲気」にならない。

僕のムード作りが下手と言えばそれまでだが、葵の気質にも多少の責はある、とい言い訳させてもらいたい。

葵にとって、性は「女の子の秘め事」ではない。
セックスも、SMも人間の営みにすぎない。
カメラのファインダーのごとく、その瞳にありのままの情景を映し、意味のある瞬間を切り取れないかと探す。
まるで獲物を狙う動物が、冷たい風を気にしないように、全く刺激に無反応だった。
それは事前のやり取りの通り、ある意味では集中しているが、性的な事柄には全く集中できていない状態だった。

端的に言えば、愉しみすぎているともいえる。
テーマパークのアトラクションで騒ぐかの如く。

和気あいあいと話しすぎたのも一因かもしれない。

ぎこちない時間がややあったあと、僕は葵の手足が冷たいことが気になった。

「緊張…はしてないよね」
「うーん…してないと思います」

話しながら、軽く揉んでやる。
口と体では、体のほうが正直だ。
頭では理解してない緊張がそこにあるのだろう、と思う。

「…」
「ん?」
「いえ…」

葵は急に居心地悪そうにした。
なるほど、と僕は直感し、しばらくマッサージに専念することにした。
わざと無言のまま、体を揉みほぐしていく。
しん、と室内が静まる中、肌を滑る掌の音だけがかすかに聞こえる。

時々、際どい部分にも触れる。
相変わらず葵は無反応なままだったが、少し呼吸のリズムが変わった。
僕は目に見えない変化を感じ取る。

「待って…ごめんなさい、リラックスしたらお手洗いに行きたくなっちゃいました」

逃げ出すように、葵は席を外す。
本質的に、彼女は何かをされるという事に不慣れな様子だった。

見せる機会のなかった女の顔

少し冷えたのを言い訳にベッドに入り、僕は葵を抱き寄せたが、さっきまでとは打って変わって、遠慮がちな空間が二人の間にできた。

「ぎゅーってして」

言ったのは僕だ。
それなりの年齢のSとしてはキツイが、別にメンヘラ化したわけではない。

「あ…はい」

葵はぎこちない。

「もっと」
「…」

黙り込み、遠慮がちに肌を寄せる。
空間が無くなると僕は満足し、まるで初めて裸になった恋人を安心させるかように、その頭をなで、背中をゆっくりとさすった。

「…」

無言で、繰り返す。
どれくらい時間が過ぎたか分からなくなったころ、葵はぴくり、と体を震わせた。

それから先は、体のどこに触れても、別人のようによく反応した。

(私ばっかりでも申し訳ないので、良かったら好きに使って下さい)

メッセージを思い出しながら、僕は遠慮なく、葵という女体を楽しむ。
秘所はいつの間にか、びっしょりと濡れている。
僕が挿入しようとすると、葵は一段と喘いだ。
その声があまりに大きかったので、僕はその口を手で塞ぎ、押さえつけながら奥まで押し込む。少し動いただけで、きれいな体がびくびくと震えた。
それから先はずっと同じように、うなり声と痙攣が繰り返された。

SMプレイなしのSM

「これ…SMなんでしょうか?」

帰り際、葵は苦笑いとも、照れ笑いともつかない調子で言った。
見ようによっては、ただ普通に(途中、やや嗜虐的な場面はあったが)エッチしただけではないか?ともとれる。
だが、僕はそれも必ずしもSMの手段が”SMプレイ”じゃなくてもよいと思っている。

「もともと目的にしてたところは、達成できたんじゃない?」

コクコク、と頷く。
彼女にとっては優しく撫でられ、普通の女の子のように受け身のセックスをすることが初めてだった。
ただそれだけのことだ。

「熱い!めっちゃ血行よくなってる!ねえ、喉が渇いたからお茶飲みにいきません?」

葵は初めて会った時と同じように、快活に笑い、素直に話した。
もしかしたら「いつも一定の自分でいる」ことが、誰にもバレない彼女の演技の正体なのかもしれない。

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