父性を求めた女リリ(22)アイドル

体験女性ドキュメンタリー

リリはアイドルをしていたんだという。それを明かされた時に、僕はそれを素直に信じることができた。
サラサラのストレートヘア、人懐こい丸顔、目元はどちらかというとタレ目で、つけまつげをつけなくても長い睫毛、ナチュラルな困り眉。
ぷっくりとした唇。小さくて細いのにグラマーな体。挙げていくときりがない。磨き上げられた美しさではない。まるで子供や子猫のような、説明不要の可愛らしさがある。これは美醜というより、魅力という言葉で語るべきかもしれない。見るものを魅惑する力があるのである。
アイドルと言われても違和感のない佇まいだったのである。
おまけに、世話焼きで人懐っこい。それはよく知らない人に限って発揮される性質だった。人当たりもとにかく良いのである。
リリは誰にでも好かれ、誰とでも仲良くなれるだろうと僕は思った。
つまり、アイドルとしての素地を十分に感じることができた。

「アイドルって何するの?」
「ステージで歌ったり、踊ったり、あとは配信とかしますね」
「人気あった?」
「まあそこそこ。私は清楚系ロリ担当でした」
「清楚系ロリって、それはただのロリなのでは?」
「えっ?確かにそうかも?!だから売れなかったのかな」
「人気出たんじゃなかったいんかい」

これはまあ冗談として、アイドルに求められる事項をリリは殆ど備えていたから、とんとん拍子に進んで、人気も出たらしい。オフの日は動画配信をして、投げ銭は結構な収入になったんだという。

「アイドルはもうやらないの」
「やれるならやりたい。でも本腰を入れるには、生活基盤がないし、ちょっと疲れちゃったから。私の方も気を遣うんです。私は可愛さを売ってます。買ってくれる人にはいい顔をしないといけない。そこで私の本当の姿がどうとか、エゴを出すのは違うなと思うんです」

彼女が望むように、誰もが彼女を認め、ちやほやしてくれた。では承認欲求も満たされるのではないか、と思うのだがそれも違うのである。

「アイドルとしての私を見てくれる人は、そういう仮面を好きになってくれた人。仮面は私や事務所が勝手に作ったものだけど、気に入ってもらってるならそれでいいと思うの」
「中を見たいと言ってくれる人もいるんじゃないの?」
「もちろん居るけれど、そこは線引きをしっかりしないと」

リリの言っていることは、僕は分かるような、分からないような気がした。
僕だって仕事中は、それなりにビジネスライクな態度でものをいう。そこにプライベートの僕は居ない。

「一度だけ撮影がありました。カメラの前の、私は違うんです。私だけど、私じゃない。まるで乗り移ったかのように、私が理想にしてるアイドルを一杯に演じることができました。後ろ向きで、悩んでいる私じゃない。見てくれるファンのためだけを思って、一生懸命やれた」

リリはオレンジジュースを飲みながら語る。

「でも、気づいたんです。本当の私は笑ってない。焦ってるだけです。もともと、浮き沈みがすごく激しいから」

家庭環境を聞くと、父は典型的な暴君だった。リリも時々手を上げられた。
男性から守られる、という経験を知らずに育ったリリは、それを何とか得てみたいと思うようになった。
手始めに同世代の男から始めた。すぐに相手はできた。そしてリリは自信の子供らしい感情をぶつけ、試してみた。
リリはこの頃メンヘラであり地雷系だった。彼女の寂しさをありのままに受け入れてくれる人は居なかった。
高校生くらいまでこの行為を幾度か試した後、恋愛では満たされないと知った彼女が取った行動こそ、アイドルになることだった。

だが、どうも彼女は真面目過ぎるところがあって、だんだんとアイドル活動から離れていった。
それでも人と接することは好きだった。生活基盤を整えようと思うと、だんだんと手っ取り早く稼ぐ方に意識が向いた。コンカフェで稼ぎ、果ては風俗で稼いだ。(風俗といえど、ライトなものである。風俗経験のある子は過去の体験者にも何人か居た。性を浮き彫りにするこのサイトとは、一部が引きあうのかもしれない)
どの仕事も、彼女には向いていた。リリにとってはそれは成功体験になった。だが、受容の体験ではなかったようだ。

「私にとって、男の人はよく分からないものでしかない。それでも、ときどき私の空白を埋めてくれる。」

女として認められること以前に、彼女は一人の人間として認めてもらいたかった。

「身も心も、本当の、丸裸の私を認めてほしい。SMって、何しても許されそうだったから。どこかで私を見つけてくれる人が居るんじゃないかと思って」
「どうしてメッセージをくれたの?」
父性の話 が好きだったから。私には、お父さんがいなかったから」

聞けば、母子家庭ではないのだが、実質的には父親は居ないも同然で育ったようだった。

「えっちなことはあまりしたことが無いです。私は性欲が薄いんだと思ってました。アイドル時代も処女だって言って売ってたし」
「本当は?」
「えへへ、実は経験はある」
「だよね」

彼女の望むものが、SMの世界にあるのか?
たぶん、一般的なSMの世界にはないだろう。SMと普通の間くらいにある空白地帯…白いゾーンに彼女はいる。

「興味自体は、しんしんとありました」
「支配されたい、だっけ」
「支配されたい、とはちょっと違うかも。絶対的なものになってほしい」
「絶対的なものとは?」
「もう私が迷わないように。私の道しるべになる様に」

それはおそらく、父のような物なんだと思う。
優しく、力強く、そして絶対的なもの。
リリが欲しかったのに、得られなかった、本当の男。

彼女は安心したいのである。
調子がいい時ばかりではなく、悪い時に男がどう扱うのか。
優しく愛でてくれることは、皆がしてくれた。でも、安心には足りなかった。
怒っているとき、叱りつけるとき、暴力をふるうとき。
そのすべてを見たうえでないと安心しない。
幼少期にいた、家庭の父が、本当はどういう人物だったのか。それは極端な世界に飛び込まないと、片鱗すらみつけられないだろう。

「じゃあ、そろそろ行こうか」

僕たちは、密室に二人で移動する。
その中で行われることは、彼女の家庭の、父の行動の再現になるかもしれない。

「…怖くないかい?」
「えへへ、楽しみですよ~」

いつもの、人懐こい笑顔でリリは明るく答える。
その目の奥に、どこか孤独と、寂しさが潜んでいた。自分を縛り付けたうえで、暖かく包んでくれる人。
SM的な文脈では間違うだろう。それはきっと、家にずっと一緒にいるような人のはずだと、僕は思った。

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