背の小さい女性の性的な悩み
「はじめまして。21歳の女子大生です。
(中略)
SMとはちょっと違うかもしれないんですけど。私は体にある特徴があって、たぶんそのせいでエッチがうまくいきません。男性とのお付き合いも何度かしましたが、みんな私を大事に扱いすぎるような気がしています。Mっけ自体はあると思ってて、性欲も強いほうで、ただただ普通に犯さまくりたい、みたいな願望があります」
サナからのメッセージはもう少し続いていたが、冒頭の一節を除いては理解できる範囲の願望だと思った。
僕で何か役に立てそうならお手伝いしたいところだ。
「言いたくなかったらいいのですが、その特徴とはどんなものでしょう?」
「実は、背が小さいんです」
“ある特徴”が手に余るような、難しい障害だったらどうしようと考えていた僕は、ちょっと拍子抜けする。
たしかに、プロフィールのチェックマークは150cm以下になっている。
「いくつなのか、うかがってもいいですか」
「145cmです」
たしかに小さいけれど、僕としては特に気にならないというか、そうなんだ。という感じだ。
「本当に大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ。体が小柄だって、一人の女性に変わりはないわけですから、おかしく思う必要はないでしょう」
しばらく話を続けて、いざ会おうかという段になってもサナは自分の背を気にしていたが、やがて整理がついたのか、翌週末の昼過ぎ、まだ少し肌寒い季節に会う約束になった。
待ち合わせ場所でサナはすぐに見つかる。
事前申告通りひときわ小柄だったからだ。
はじめましてのあいさつの後、確かに小さいね、と僕は口にする。
「はい。ていうか初めて会うと絶対こういう感じで、もう言われすぎて」
「だよね、ごめん」
「いえ、慣れてますから」
足元を見れば、それとなく厚底ブーツを履いている。
だから目線が極端に違うというわけではない。遠目に見ればプロポーション的にはきれいで、モデル体形をそのまま縮めたような感じである。だが、いざ隣に並ぶと頼りないくらい小さく感じる。肩をはじめ、体のつくりが細い。
手のひらに収まりそうな小顔。ショートパンツからのぞく細い足。
これくらいの背だと、女っぽいかどうかの全体的な印象を決めてるのはお尻なんだろうな、と僕は思う。大きければ女っぽさを感じ、小さければ子供っぽさを感じる。本人の希望とは異なり、サナは残念ながら子供っぽい方の印象なのだが、全体の肉づきがほどほどにあり、それで何とか女性らしさのバランスが取れていた。
隣あって歩くあいだ、失礼だとは思いながら、もしもサナがあと10cm大きかったら?と想像する。
それでもまだ小柄だが、美しさは増すと思った。本人も言っていたが、やはりアンバランスな感じは否めない。
傍から見たらどういう二人に見えるのか気になってしまう。
特に盛り場では変に思われそうだ。
実際には何の問題もないのだが。
大人の体なのに子供であることを求められて
喫茶店で向かい合う。
サナの顔立ちは整っている方だ。優しい印象の目元にピシッと引かれたアイライン。やわらかい茶髪に合わせたトーンのカラコン。トップスはゆったりと品がいいニット。
僕はそのメイクも、ファッションセンスも好ましく感じた。普遍さを持ちながら、しっかりと人に見られることを意識して整えている。先ほどの詫びというわけではないが、僕は改めてそれをほめる。
「ありがとうございます…。急に恥ずかしくなってきました」
はあー、と言ってサナは自分の顔を両手で覆う。小さな指にネイルが光る。
小さな唇から漏れる声は少し高い。
「私自身は結構警戒心が強いので、あんまり男性とこういう感じになるのに慣れてないです」
「なのによく体験きたね」
「好奇心と、なんていうか、知らない人のほうがいいかなって」
「しがらみがない」
「そう。しがらみがないから。あと、ハルさんの文章を読んでいたら、なんか涙が出ちゃって。私のこともうにかしてくれないかな、って。体もそうなんですけど、心のほうも伸びてない気がします。心理とかもちゃんと書いてたし、見た目が変わった人でもいけるかなって」
「変わってなんかないよ。流行りも抑えててお洒落じゃない」
「ありがとう。めっちゃ気使ってます。小さくて子供っぽいから、見た目で判断されたくないし。嫌なんです、子供っぽく見られるの」
綺麗に整えたメイクは、その狙いを十分に果たしているように感じる。
「チャームポイントなんじゃないの? アイドルで小さいのが可愛い人もいるじゃない。エネルギーが詰まってる感じがする」
「何かあざとくて嫌じゃないです? 小さいのは可愛いかもしれないけど、それがメインの理由になりたくない」
確かに、それは本人と関係のない体の都合だ。
身体的特徴ではあっても、個性にするのは変な気がしてくる。
僕がそう口にすると、サナはきょとんとした。
「そう。そうなんです。見た目が先に来てほしくない。…初めて言葉になったかも」
小さい、か弱い、無力。
低身長、小柄な女子に付きまとうのはそんなイメージであり、現実的にもその通りだろう。
強いものは弱いものを守る。
男は女を守る。
女は子供を守る。
大きい人は小さい人を守る。
みんな、自分よりもか弱い存在を守る。
見た目の幼さも相まって、背の小さい女の子というのは、子供と同じような属性を備える。
ある意味、彼女たちは聖域にいる。大人でありながらそこに子供を重ねられる。
周りが優しくしてくれる。助けてくれる。そんな境遇に慣れている。
「せめて150cmあれば、って思うんですけどね」
「でも、小さくて得な事もあるでしょう」
「まあ…みんな優しくしてくれるので」
「ちょろい?」
「笑」
「子供っぽいことをある意味期待されてるよね。」
「あると思います。私が大人っぽ過ぎてもなんか変じゃないですか?」
「…見た目との兼ね合いがね」
「うー、言いたくないけどそうです」
人は社会の中で生きていく。誰だって周りの目を気にするし、できれば周囲の期待に応えたいと考える。意識的、無意識的にお互い、無形の期待に応えながら生きる。
“子供キャラ”を求められるサナは、日々注がれる優しさのおかげで、おおむね朗らかで、少し驕慢である。
「本当は、もっと怒られたり、辛い目にあったっていいんですけど」
「とか言って、実際怒られるといやでしょ」
「はい」
サナは悪戯っぽく笑う。
幸い、周りの客席は空いていたので、僕とサナは他人に聞かれる心配なく、ゆっくりと話すことができる。
彼女自身は、繰り返される低身長の話題とは裏腹に、それ自体を深刻に気にしている様子はない。
コンプレックスはあれどもメリットもあると理解している。
外見を悩んでいるようで、実際は外見そのものに悩むのではない。
内面と、固定観念とのギャップに悩んでいる。
僕のところに来て話し続ける理由は、そのギャップが性的な問題に紐づいているからだろう。
「すごく言いにくいですよ、Mっけがあるとか…。私見た目がこんなんじゃないですか? なんか? そもそも小さいからエッチなことに興味を持ってると変な風に思われちゃう気がするし」
「子供のくせに、みたいな?」
「はい」
「大人なのにね、変だよね」
確かに、サナが快楽に溺れる様を想像すれば、ずいぶんと背徳的な香りがする。
でも、それはきっと幻だ。
彼女は成人した一人の女だ。
人並みにいやらしくたって、何の問題もない。
「普通に、ただの女として見られたいです」
「それは性的にも?」
「…はい。やり取りの中で、体が小さくても一人の女だって言ってもらって、その言葉で決心がつきました」
事実として当たり前のことでありながら、日常ではっきりと言葉になる機会は無い。
こういう場で、こういう二人だからこそ、繋がる何かがあった。
「今まで付き合ったのは二人です。エッチの経験は一人だけ」
サナはぽつぽつと過去を話し始める。
「中学生のころ、初めて告白して、子供にしか見えないからムリって振られて、それで一つ目のトラウマ。付き合ってた彼に、小さいくせに淫乱だな、って言われて、それが二つ目のトラウマ」
「辛かったね」
「はい」
「大人の女なのに」
「でも事実だから」
「どっちが?」
「小さいのも、淫乱なのも」
「そうだね」
「…」
少しの間の沈黙。
「…なんで」
「否定されたかったら、わざわざ僕のところを選ばないかなって。元彼とサナは対等だったから言われるのが嫌だったろうけど、僕とサナはそういう関係じゃないから、いいでしょう?」
「…はい。そんなこと、言われる機会がなくて。ちゃんと、馬鹿にしてほしいって思ってました。私は自分の体がきらいだから」
トラウマは、トラウマのままではない。
乗り越えるチャンスがあれば、疑似体験をして、次に進める。
サナは少し感傷的な様子で、涙ぐんで言葉を紡ぐ。
「誰も、私を女としては見てくれなくて。発育もすごく遅くて、高校生になってやっと胸も大きくなったくらいでした。そのあと、痴漢にあったんです。怖かったけど、ちょっとだけ嬉しくもあった。自分がやっと、女として認められた気がして」
ここで、それ以上話させてはいけない気がした。
彼女のなけなしのプライドは、これから取り返されるべきものだ。
「そろそろ行こうか」
勘定を済ませて、外に出る。
夕暮れの少し前。建物が落とした影に潜みながら歓楽街へ向かう。
女の性欲をそのままに
「結構、女っぽい体してるんだね」
「そうですか?」
「肉の付き方がいい」
「頑張って太ったんです。女っぽい体つきになるにはそれしかないって思って」
ホテルの一室。
ニットを脱いでキャミソール姿になったサナを見ながら、いつもはしないような、性的な目線で声をかけていく。下世話はいけないけど、期待にはこたえたい。
「胸も大きい」
「Cですよ」
比率の問題なのか、妙になまめかしく見える。
「脱いでいいです?」
「うん」
女の私を見てください、と言わんばかりに、カチャカチャとベルトを外して、その肢体を露わにする。
片手で掴めそうなくらい小さな尻は半分も覆われていない。妖艶なシースルーのTバック。
ほのかに赤みのさす、淡い紫色。
パルフェタムール・魔性の女の魔性の色。
「ハルさん」
「うん?」
「私なんか、力で押さえつけるのは簡単?」
「簡単だよ」
胸をとんと押すと、サナの体がベッドの上に倒れる。
僕は彼女に覆いかぶさり。その手首をつかんで押さえつける。
サナは試しに抵抗するように力を入れて、すぐにあきらめる。
「子供みたいな見た目で、えっち?」
「うん。いやらしくてそそる、いい女だ」
足元から、彼女の体を嘗め上げるように見る。ゆっくりと上がっていった視線が彼女と交錯する。
サナはぶわっと鳥肌を立てた。
「好きにしてください」
求められたい。求められたい。求められたい。
Aは縋りつくように僕の体に手をまわす。
そのまま胸に唇を寄せる。手が下半身をまさぐりだす。
小さな体が、僕の下で淫猥な匂いを放つ。
押しつぶされた花が滲むみたいに、下着の一部がじっとりと濃い紫色に変わる。
ちゅ、っと鳴らした口元から、女の吐息が虚空に消えた。
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