量産型少女と巨乳という記号 ルカ(20) 事務職

ロゴ 体験女性ドキュメンタリー

地雷系・量産系ファッションと巨乳

ツインテールに黒い服。赤みの強いアイシャドウ。
ミニスカートから伸びる真っ白な脚。
新宿の街角、ひっきりなしに声を掛けられそうないでたちで、ルカは僕を待っていた。

「こんにちは」

挨拶をすると、ルカはイヤホンを外して僕を見る。
びっくりして、微笑もうとして、はにかんで、表情を瞬く間にコロコロ変えながら、結局はぶっきらぼうにこんにちは、と言った。

顔立ちはどちらかというと美人で大人びた雰囲気がありそうだが、ファッションやメイクをうまく使って「かわいい」のゾーンに入れていた。
全体の雰囲気はガーリー、特に少女性を強調したようなもので、ルカには何とも不思議な魅力があった。
ただひとつだけ、アンバランスな部分があった。

胸。

フリル付きのブラウスが妙にピンと引っ張られていた。端的に言えば”巨乳”である。華奢な体つきなだけに、それは余計に目立った。
意識的に僕は目を逸らす。
こんな「体験の出会い」であっても、変に性的な目で見たくはない。
当たり前のことだけど、わざわざそう意識しなくてはいけないくらい、本能的に目が行ってしまうのであった。

ルカの過去といま

例えば華やかなシーンでは、男性はスーツを着て、女性はドレスを着る。
一段落として、仕事の場であれば襟付きのシャツや、ワンピースが望ましい。
お祭りの日には伝統衣装を着る。観光地では忍者の恰好をしている人もいる。

服というのはその人の役割を間接的に表現する。
特に役割が割り当てられていない日常では、個人の趣向に紐づいて選ばれる。
狙う、狙わないは別として、ユニセックスのように中性的な服が好まれる場合もある。

「可愛らしい服だね。

僕が言うと、ルカはにっこりとほほ笑んだ。

「こういうのが好きなんです。嫌いじゃなかったですか?

ふっつりと切りそろえられた前髪から、少し悪戯っぽい瞳がのぞく。
黒いブラウスは袖口に少し透け感があり、胸元には小さなリボン、いくつかのフリルがある。
ルカの服も、外見も総じて女性という記号をしっかりと内包していた。

「着られるうちに着たくて。子供の頃はあんまりこういうの着られなかったから
「そうなんだ。両親の方針?
「んー、そんなこともないんですけど、そうと言えばそうです

よく分からない答えに僕は首をかしげる。

「正確に言うと、よく知らないんです。小さい頃、親と離れたから

その後は親戚の家に暮らしたらしい。
両親の事はルカは何も聞かなかったし、聞かされることもなかった。

「でも、お父さんはきっと蒸発したか、死んじゃったんだろうなって思う。そんな気がするの。

アイスコーヒーの中の氷が、カランとなった。
ルカと会ったのは、たまたま僕が平日休みの時で、カフェもガラガラだった。
少なくとも僕たちのように昼間からだらだらして、急ぐ用事が無さそうな人はほかに見当たらない。
話しているうちに、ルカの口調も砕けてくる。

「保育園だったかな。発表会で、ブラウス着てスカートはいて。かわいい女の子だね、って褒めてもらったの覚えてます。
ずっとかわいい子で居てね、ってお父さんは笑ってました。

彼女の父は僅かな記憶の期間にしかいないが、客観的にはあまり良い大人でもなかったようだ。
酒に酔い、ときどき暴力をふるった。

「色々大変だったんだと思います。自分も大人になってちょっとわかるっていうか。

それでも、ルカは父の事を口にするときは、かすかに憧憬のような響きが混じっていた。
傷つけられ、やがては捨てられても、怒ることもなく、父のまま慕っている。

「体験のメッセージをくれたきっかけは?
「うーん。まあ、なんとなくです。寂しかったから。
「いままで経験はある?
「なくはない、くらいです。エッチな経験自体は多いといえば多いかも。たまに風俗でバイトしてるので
「そうなんだ
「でも挿入とかはないやつなので、したことあるのはプライベートだけです
「仕事で男性と関わるなら、休日はそういうの避けたいのかなって思ったけど
「そういう人もいるけど、あたしはあんまり…普段から何も考えてないので
「どうして風俗を選んだの?
「ほかに何もできないから。普通の仕事もあんまりうまくいってないし。
「そんなことはなさそうだけど
「ありがとう。でも、学校も成績悪かったし。自分で分かるから
「そっか

一息ついてグラスを持ち上げようとする
極細の鎖で編まれたブレスレットが手首で光る。
そこにいくつもの古傷があることを僕は見つけた。

「…おっと

水の入ったグラスを持ち上げると、水滴が滴ってルカの胸元を濡らした。

「大きいね

何となく、何も言わないのも変なように思えて、僕は素直な感想を口に出した。
胸はルカの大きな”特徴”だった。
性的な記号として、彼女の意志とは無関係に、彼女の個性の一つになっていた。
本人とは何の関係もない。けれど、自然と目につくものだし、少なからず繰り返された話題でもあるだろう。
例えば、背が低い女が「小さいね」と言われるように。

「そうなんですよ。

ほんの一瞬、ルカは微妙な表情を浮かべた。

「嫌?
「昔はすごい嫌だったけど、今はそうでもないです。仕事には役立ってるし

僕は思わずクスリとする。

「中学生くらいからもうこのサイズでした。Fです。
「昔は何かあったの?
「男はこれで優しくしてくれるけど、女が大変なの
「そういうもん?
「うん。中学のころとかやっかみ?が酷くて。聞こえるように「デカパイ」とか言ってくるし
「きついね
「嫌すぎてサラシ巻いてました

好奇心で色々と聞いてみたい誘惑にかられたが、失礼だと思いなおしてやめた。

「そろそろ、行こうか

SMのようなセクシュアルな話題を通じて知り合いながら、この場で彼女の苦悩に触れる続けるのは嫌だった。色々な感情がごちゃまぜになり、僕は二人だけの空間に早く逃げ込みたかった。

失われた少女。現れた女体

ホテルの一室で、僕はルカをあらためて見る。
かわいい。
顔立ちのことではない。普遍的な好ましさのようなものを僕は感じていた。
少女、というテーマに沿ってうまくまとめられたスタイル。
純朴で汚れを知らない、周囲に明るい希望を与える、若さという特権。

「ありがとう

ルカのグレーの瞳に、僕は惹きつけられる。
カラーコンタクトに縁どられた、妖しい光。

「お洋服、ほめてくれて嬉しかったです。
「…脱がせにくいな
「いいんです。好きにしてください

僕は、彼女のブラウスのすそに手をかけてまくり上げる。
黒い、真っ黒い服をまくり上げる。
真っ白な肌。生まれたてのまま隠し続けてきたような、なめらかな肌。

やがて下着がのぞく。
服と肌の間で暖められた空気が抜ける。むわっとするような、女の匂い。
ブラが少しズレて、乳首の赤みが見えた瞬間に、ルカは少女の幻想を失う。
そこにあるのは、まぎれもない女の体である。

かわいいも、女らしい、も身に着けていない肉体。
守るべき少女から、汚してはいけないものから、対等な生身の人間、大人の女に。

ルカの世界は、何も変わっていない。
服を着ている間も、脱いだあとも、変わらず自分を少女だと思い込んでいる。
でも、僕の中ではすべてが変わっていく。
もう神秘ではない。一人の女だ。

あまりの違いに、僕はルカと、ルカ’という別人を相手にしているかのような錯覚に陥る。

「そんな目で見ないで

下着まではぎ取られた彼女は、消え入りそうなくらい、小さく見えた。

「自分の体が、嫌なの。

手首よりもずっとたくさんの、無数の傷跡がルカの胸元に刻まれていた。

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