SさんとMさんには相性というものがあり、お互いSMという枠組みの中で出会いを探すわけだから、縁があってパートナーになったり、別れたりを繰り返す。
続くタイプとはすなわち、 “得意なタイプ” である。
得意というのは性格的な話。プレイスタイルのことじゃない。
僕もいくつか特異なタイプがあり、その一つを挙げると、メンヘラが得意である…
などと書くと包丁で刺されて死にそうだが、ここでのメンヘラは地雷系のことではない。
ちゃんとした (?) メンタルヘルス、精神疾患的なものの方だ。
白いゾーンにはメンタルヘルスを扱った記事がたくさんある。
心理テストの記事なんかは記事そのものの結論が「鬱っぽい、依存的な人が多い」というもので、さらに読者コメントが続々と「私もそうかも」といった感じで集まり、裏付けにもなりつつある。
そもそも僕がメンヘラに詳しいのには理由があって、重い疾患のある女性と付き合ったことがあるからだ。
この記事にその時のことをちょっと書いておこうと思う。
ちなみに僕自身もメンヘラになることがあるが、人に迷惑をかけるタイプではないので安心してほしい。
お返事が滞ったり、反応がなくなるほうのメンヘラです。最近は元気。
Yの話
Yは色白で細身の美人で、僕より何歳か年上だった。
ちょっと姉ぶったところがあり、優しい。いかにもお嬢さんといった見かけも相まって、甘い時間に浸れることが時々あった。
ただY自身の内面、精神は脆弱過ぎた。
色白なのは外に出ないで臥せっているからだし、細身なのは食欲の問題だった。
Yにはおよそ生命感のようなものがなく、体温も35度がやっとという感じで、手を触れるといつも冷たい感じがした。
通院にも何度かついていった。
先生と彼女のやり取りはあまり覚えていない。ただ、診察室は神秘めいた空間に感じた。
Yは元気がない。もちろん、悪いことをする元気もない。その点で、彼女は善そのものだった。訥々と近況を述べ、先生は前向きな返答を一つ二つ返す。
そのやり取りが、なんだかとても尊く感じたものだ。
Yの薬はセロクエルで、統合失調症ではないから躁鬱病だったのだろう。
他にもいくつかの安定剤。1日3回、毎回じゃらじゃら飲んでいた。
健康な人にはイメージがつき辛いと思うが、普通なら副作用で1日寝て過ごすことになると思う。
まあ、Yも寝ているという点では似たようなものだったけど、頭の中の足りない成分を補うための薬だから、Yからしたら元気にしてくれる薬だった。
Yと僕は色々と話をした。Yは僕の言うことにはすべて従った。
特に性的な場面では顕著で、彼女は「何をされてもかまわない」人だった。
上着を脱げばリストカットの傷跡がひどく、生傷の赤とケロイドの白が皮膚のテクスチャになっており、本来の肌色がどうなのかは傷のついていない部位を見ないといけなかった。
精神的な病気であっても、年頃の女性であって、性的な面でなにか不都合があるわけではなかった。
むしろYは自分の数少ない「健康的な部分」を僕に使ってもらった方がありがたいと、言っていた。
僕はむしろ遠慮した。
当時は特にSM趣味もなかったし、なんだか彼女の弱みに付け込んでいるみたいで嫌だったのだ。
今更こんなことを書いてどうしたいのかというと、僕は後悔してるのだ、ということを書きたかった。
もっと抱けばよかったのだ。
だって僕が遠慮するたびに、Yは悲しそうな顔をしていたから。
どうして、しないの?私はやっぱり魅力がないの?
そういうことじゃないんだ
嘘。じゃあなんでしないの?
そんなやり取りを繰り返しながら、ただ裸で抱き合う時間があった。
隣にいて、肌と肌がくっついているのにもかかわらず、Yは寂しそうだった。
暗がりの中でもそれはわかる。
心を溶かすのが体温であるなら、僕はもっと彼女を病人ではなく、女として扱うべきだった。
もう10年以上前のことで未練はないし、タイムスリップしたとしてもYと付き合い続けていることはないだろうけど、でも、刹那にでも救われてほしかったなーと思うわけ。
当時のことは断片的にしか覚えていないが、何かこう、もっとうまくやれたのではないか?
という気持ちが今でも残っている。
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